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住宅取得等資金の贈与を受けた場合の取り扱いを解説

住宅取得等資金の贈与を受けた場合の取り扱いを解説

住宅を取得または増改築などをするために、父母または祖父母などの直系尊属から贈与を受けた場合において一定の要件を満たすときは、非課税限度額までの金額については贈与税が課税されません。しかし、住宅取得等資金贈与の非課税枠は期間限定で設けられている制度であるため、現行では令和5年で終了することになっています。

住宅取得等資金贈与の非課税枠は年々縮減しており、令和1年は最大3,000万円あった非課税枠が、令和5年には最大1,000万円になりました。令和1年は消費税率が8%から10%に引き上げられたことにともない、住宅市場が冷え込むことに鑑みて、住宅取得者の負担軽減のために非課税枠を拡充する措置がなされました。また、令和2年以降は新型コロナウイルスの影響により収入が減少した家庭が増加したため、期限を延長するなどの措置がとられました。

しかし、令和4年の税制改正大綱以降は「相続税と贈与税の一体化」という考えが具体的に検討されはじめたため、相続財産を減少させる住宅取得等資金贈与の非課税制度は縮減していく傾向にあると考えられます。

そのため本記事では、令和5年中に住宅取得等資金の非課税制度を活用しようと考えている方に向け、贈与税の基本的制度内容と改正点、住宅取得等資金贈与の非課税制度の概要、および本特例を活用する際の注意点と対策について解説いたします。ぜひ参考にしてください。

住宅取得等資金の贈与とは

住宅を取得または増改築するために一定金額以上の財産の贈与を受けた場合は、贈与税がかかります。贈与の法律関係は、贈与者(あげる人)が贈与の意志を表示し、受贈者(もらう人)が受贈の意志を表示したときに初めて成立します。口頭契約でも贈与は成立しますが、第三者への証明が困難であるため、書面で契約書を残しておくことが有効です。

この贈与税の計算方法には暦年課税と相続時精算課税があり、それぞれ計算上の特徴があります。住宅取得資金贈与の特例は贈与税の特例的な位置付けで、一定の要件を満たす贈与について特別に非課税枠が設けられています。

ここでは、まず贈与税の基本的制度について解説し、次に住宅取得資金贈与の特例を解説します。

贈与税の解説

暦年課税

贈与税は、その年の1月1日から12月31日までの間に贈与を受けた財産について課税されますが、贈与を受けた人ごとに基礎控除額があるため、年間110万円以下の贈与については贈与税はかかりません。ただし、相続開始前3年間の期間中に贈与を受けた場合は、その財産は相続財産に加算して相続税を計算する必要があります。なお、贈与を受けた財産が基礎控除額以下の贈与の場合、贈与税の申告は不要です。

また、令和5年の税制改正により、令和6年1月以降の贈与分から、相続開始前の贈与について相続財産への加算期間が3年から7年に延長されることとなりました。ただし、延長された4年間分の期間中に受けた贈与のうち、100万円までの財産については相続財産に加算されないことになっています。

区分暦年課税
贈与者制限なし
受贈者制限なし
控除額受贈者ごとに年間110万円(基礎控除)
計算方法(その年の贈与額合計ー110万円)×税率※1ー控除額
申告方法基礎控除を超える贈与があった場合は、翌年3月15日までに申告
相続時の対応相続開始前3年以内の贈与分については、相続財産に加算して計算しなければならない※2

(※1)税率には、一般税率と特例税率があり、18歳以上の者が直系尊属より贈与を受けた場合は特例税率、それ以外は一般税率を用いて税額を計算します。

(※2)令和6年1月以降の贈与からは、相続財産に加算しなければならない期間が7年となり、かつ延長された4年間の期間中に受けた贈与については、100万円までの財産は相続財産に加算されなこととなります。

参考:No.4408 贈与税の計算と税率(暦年課税)|国税庁

相続時精算課税

相続時精算課税制度を利用すれば、総額2,500万円までの財産については、無税で贈与できます。ただし、相続時精算課税制度の適用を受けた財産については、暦年課税と違い全てを相続財産に加算して相続税を計算する必要があるため、必ず相続税の申告をしなければなりません。

なお、令和5年の税制改正により、令和6年1月以降の贈与から、2,500万円の控除額に加え、さらに毎年110万円の基礎控除が受けられることとなりました。また、基礎控除金額以下の贈与については贈与税の申告は不要となり、相続財産に加算されません。そのため、今までよりも手続きが楽になり、今後は利用者の増加が予測されます。

区分相続時精算課税制度
贈与者60歳以上の父母・祖父母
受贈者18歳以上の子・孫
控除額特別控除:贈与者ごとに総額2,500万円※1
計算方法(贈与額の合計ー2,500万円)×20%
申告方法贈与のたびに申告が必要。なお、適用初年度は贈与税の申告と同時に、相続時精算課税制度選択届出書の提出が必要。
相続時の対応全ての財産を相続財産に加算して計算しなければならない

(※1)令和6年1月以降の贈与からは、特別控除2,500万円に加えて、毎年110万円までの基礎控除が受けられることとなりました。さらに、基礎控除(110万円)以下の金額については、相続財産に加算されません。

参考:No.4103 相続時精算課税の選択|国税庁

住宅取得等資金贈与の特例とは

住宅取得等資金贈与の特例とは、住宅を取得するために父母・祖父母から贈与を受けた場合は、一定額までなら贈与税が課税されないというものです。また、本特例の適用を受けた財産は相続時に相続財産に加算する必要もありません。

ここでは、住宅取得等資金贈与の特例の適用要件や非課税枠について解説します。

非課税となる贈与の要件

受贈者要件

下記要件の全てを満たす受贈者は、本特例の適用を受けることができます。

【1】贈与した者の直系卑属(贈与者からみて、子、孫等)であること

【2】贈与を受けた年の1月1日において18歳以上であること

【3】贈与を受けた年の合計所得金額が2,000万円以下であること

※ただし、新築の住宅用家屋の面積が40㎡以上50㎡未満の場合は1,000万円以下であること

【4】平成21年分から令和3年分までの贈与税の申告で住宅取得等資金の非課税の適用を受けたことがないこと

【5】配偶者、親族等の一定の特別の関係のある者から取得・新築した住宅でないこと

【6】贈与を受けた年の翌年3月15日までに贈与を受けた資金の全額を充て、住宅用家屋の新築等をすること

※受贈者が、取得した家屋の所有者となっていること(共有持分を有する場合を含む)

【7】贈与を受けたときにおいて日本国内に住所を有していること

【8】贈与を受けた年の翌年3月15日までに居住していること、又は同日後遅滞なく居住することが確実であると見込まれること

※贈与を受けた翌年12月31日までに居住していないときは、本特例の適用を受けることはできず、修正申告が必要

不動産要件

日本国内に所在する住宅用の土地の取得および家屋の取得につき、下記要件の全てを満たす不動産である場合は、本特例の適用を受けることができます。

【1】住宅用家屋の登記面積が40㎡以上240㎡以下で、かつ、1/2以上を居住用に利用するものであること

【2】新築後に未使用、又は建築後使用された家屋である場合は、昭和57年1月1日以後に建築されたものであるか、地震に対する安全制基準に適合するものであることにつき、一定の書類により証明されたものであること。なお、これらの要件を満たさない場合は、家屋取得日までに耐震改修を行うことにつき、贈与を受けた翌年3月15日までにその耐震改修により家屋が耐震基準に適合する旨の一定の証明書等で証明されたものであること

【3】増改築等に係る工事については、一定の工事に該当することについて一定の書類で証明がされたものであること、及び工事費用の額が100万円以上であること

非課税限度額

上記の要件を満たすことにより、下表のとおり一定の金額まで贈与税が非課税となります。なお、本特例は重複して適用を受けることができませんのでご注意ください。

期間省エネ住宅等左記以外の住宅備考
平成27年12月まで1,500万円1,000万円
平成28年1月~令和2年3月まで1,200万円700万円
令和2年4月~令和5年12月まで1,000万円500万円
令和元年4月~令和2年3月3,000万円2,500万円消費税10%適用分
令和2年4月~令和3年12月1,500万円1,000万円消費税10%適用分

参考:No.4508 直系尊属から住宅取得等資金の贈与を受けた場合の非課税|国税庁

住宅取得等資金の贈与を活用する際の注意点

贈与のタイミング

本特例の適用期限は、令和5年12月31日までの贈与となっており、今後延長される予定はありません。そのため、令和6年以降に贈与を予定している場合は、前倒しで贈与するなど、本特例の適用を受けられるよう準備することも検討しましょう。

住宅ローン控除との関連性

本特例を受けた場合でも自己資金部分について住宅ローンを組むことで、住宅ローン控除の適用を受けることができます。ただし、住宅ローン控除については贈与を受けた金額との兼ね合いがあるため、事前に試算して有利な方法を選択しましょう。

確定申告について

本特例の適用を受けるためには、非課税枠の範囲内で贈与を受けていたとしても、必ず期限までに贈与税の申告が必要となります。もし申告を忘れてしまった場合は、贈与税の基礎控除を差し引いた残額部分に贈与税がかかることとなり、多額の納税が生じる可能性があります。

そのため、贈与税の申告期限である、贈与した年の翌年2月1日から3月15日までの間に下記資料を添付して必ず申告しましょう。

【必要書類】

・贈与税の申告書

・住宅取得等資金の非課税の計算明細書

・戸籍謄本

・請負契約書の写しや売買契約書の写し

・登記事項証明書(土地、建物)

・増改築等工事証明書等(増改築等の場合)

・住宅性能証明書等(省エネ等住宅の場合)

なお、国税庁から本特例に関する必要書類チェックシートが公開されていますので、こちらも参考にしてください。

参考:住宅取得等資金の非課税チェックシート|国税庁

※その他、贈与の翌年3月15日までに居住できないなど、特別な事情がある場合は別途提出資料が必要となります。

参考:令和4年分の贈与税(住宅取得等資金関係)提出書類|国税庁

住宅取得等資金贈与を活用した税金対策

非課税限度額を超える贈与

本特例の非課税枠を超えて贈与した金額については、贈与税の課税対象となりますので、暦年課税か相続時精算課税制度の適用を受けることとなります。また、非課税限度額の範囲内で贈与したとしても、その贈与を受けた資金を住宅取得以外に使用した場合は非課税の範囲に含まれませんので、こちらも贈与税の課税対象となってしまいます。非課税限度額を超える、または住宅取得以外の用途で資金を贈与する場合は、相続財産総額の多少や、今後の財産移転の予定なども考慮し、暦年課税と相続時精算課税制度のうち有利な方法を選択しましょう。

相続対策としての贈与

贈与によって早期に財産を移転させることは相続税対策に有効です。しかし、贈与でしか受けられない制度や、相続でしか受けられない制度もあるため、どの制度の適用を受けることが有利なのかを事前に試算するなどして検討することが重要です。

たとえば、一定の要件を満たしたうえで、住宅用地を被相続人の配偶者か同居親族が相続した場合は「小規模宅地等の特例」の適用を受けることができます。小規模宅地等の特例は土地の評価金額を80%圧縮できるため、適用できれば相続税負担を大きく軽減できます。(贈与を受けた財産には適用できません)

そのため、税負担の軽減を一番に考えるのであれば、住宅取得等資金の贈与の特例を受けて住宅を新築するよりも、相続により自宅を取得して小規模宅地等の特例の適用を受けることができるように、親と同居するなどの準備をしたほうがよい結果になるといえるでしょう。

ただ、どの特例適用を受けるかの選択は、税負担だけでなく各人の事情なども踏まえて検討する必要があります。まずはパターン別の試算をおこない、総合的に判断しましょう。

まとめ

本記事では、暦年課税制度と相続時精算課税制度制度、令和5年の税制改正、住宅取得等資金の贈与の特例制度について解説してきました。

住宅取得等資金贈与の特例の適用を受けるためには、受贈者および不動産について一定の要件を満たす必要があります。本特例の非課税枠を超える贈与については贈与税の課税対象となりますが、贈与税がかからない場合においても、一定の書類を添付して贈与税の申告期限までに申告する必要があり、期限内に申告しなければ本特例の適用を受けることができません。

また、本特例は令和5年12月31日までの贈与について適用を受けることができるため、期限に注意しながら準備を進めるようにしましょう。

著者情報

リトラス税理士法人 税理士

佐藤憲亮(さとうけんすけ)

【経歴】

京都市出身の若手税理士。税理士業界歴15年超。

「お客様との対話を大事にする」をモットーに、何でも相談できる税理士として税務顧問業務をメインに活動。

税理士資格取得後は、京都市で税理士事務所を運営している。

また、そのかたわら税務記事や税務論文の執筆もおこなっており、スキマ時間を使ってブログ運営もしている書くことが好きな税理士。

難しいことはわかりやすく、伝わるように書くことを大事にしている。