マンションを購入する際、地震保険に加入するべきかどうか、悩む方もいるのではないでしょうか。地震保険は、建物の修繕費用だけでなく、被災後の生活再建にも役立つものです。
この記事では、地震保険の補償内容・補償範囲や保険料相場を解説します。マンションに地震保険が必要かどうかを知りたい方は、ぜひ参考にしてください。
目次
そもそも地震保険とは?
はじめに、地震保険の基本的な概要について、以下の内容を把握しておきましょう。
- 地震保険は地震による損害を補償する保険
- 地震保険は火災保険とセットで加入する
- 政府と損害保険会社による共同運営
それぞれ説明していきます。
地震保険は地震による損害を補償する保険
地震保険は、地震による損害を補償する保険です。通常の火災保険では、地震が原因の火災は補償されないため、万が一に備えたい場合は地震保険への加入が必要です。
火災以外にも、さまざまな損害が補償されます。以下の3つの視点から見ていきましょう。
- 地震保険の補償内容
- 適用範囲(共用部分・専有部分・家財)
- 補償対象外になるもの
地震保険の補償内容
地震保険で補償されるのは、以下の災害によって火災や損壊などが生じた場合です。その際に建物や家財が受けた損害が補償されます。
補償される災害 | 補償される損害の原因 |
地震・噴火・地震・噴火による津波 | 火災、損壊、埋没、流失 |
例として、以下のようなケースが補償対象となります。
- 地震で建物が崩れた
- 地震による津波で建物が流された
- 地震で家具が壊れた(家財を対象とした契約をしている場合)
地震保険の適用範囲(共用部分・専有部分・家財)
地震保険の適用範囲は、以下のように共用部分・専有部分・家財の3つに分かれます。
加入者 | 地震保険の種類 | 適用範囲 |
管理組合 | 共用部分 | 柱・梁などの構造躯体、外壁、屋根、エントランスホール、共用廊下、階段、バルコニーなど |
入居者 | 専有部分 | 住戸内の間仕切り壁、床、天井など |
家財 | 家具、家電製品、寝具、衣類、食器など |
マンションの入居者が加入できるのは、一般的には専有部分と家財です。
専有部分と家財は、別々に契約します。専有部分のみに保険をかけている場合、家財は補償されません。
一方、共用部分の地震保険に加入するのは、マンション管理組合が一般的です。しかし、加入する義務はありませんので、マンション購入前に、共用部分の加入状況を確認しておくとよいでしょう。
地震保険の補償対象外になるもの
家財保険では、以下のものは、地震保険の補償対象外となります。
- 1個(または1組)30万円を超える貴金属・宝石・書画・骨とう・美術品
- 通貨・有価証券(小切手、株券、商品券等)
- 預貯金証書
- 印紙・切手
- 自動車
また、以下のケースでも地震保険の保険金は受け取れません。
- 地震等の際の紛失・盗難の場合
- 故意、重大な過失、法令違反による損害
- 地震などの発生日の翌日から10日経過後に生じた損害
- 戦争・内乱などによる損害
地震保険は火災保険とセットで加入する
地震保険は、火災保険のオプションとして付帯するものです。地震保険単独では加入できません。
そのため、地震保険と火災保険は同一の保険会社で加入します。別々の保険会社で加入することは不可となっています。
政府と損害保険会社による共同運営
地震保険は火災保険とは異なり、国と民間の損害保険会社で共同運営されています。保険金の支払いも、政府と損害保険会社が共同で負担します。
これは、地震がいつ、どこで発生するかわからないうえに、火災と比べると被害が広範囲におよぶ恐れがあるためです。大地震では被害件数や損害額が膨大になる可能性もあり、民間の保険会社だけで全てを負担するにはリスクが大きいといえます。
しかし、被災者の生活再建のためには、保険金が確実に支払われなければなりません。そのため、「地震保険に関する法律」に基づき国が運営に携わっています。
マンションに地震保険は必要?
ここまでは、地震保険の基本概要や補償内容をお伝えしました。
これを踏まえて、マンションに地震保険が必要かどうかを解説します。押さえておきたいポイントは、以下の3つです。
- 地震保険は被災後の生活再建に役立つ
- 資産状況によって加入を検討すべき
- 地震保険はあとから付帯することも可能
詳しく見ていきましょう。
地震保険は被災後の生活再建に役立つ
地震保険に加入していると、大地震で被災した際にも生活再建の見通しを立てやすくなります。
被災した際には、仮住まいの費用や家財の調達、生活を立て直すための資金などが必要です。さらに、マンションが損壊しても住宅ローンの返済は続きます。
地震保険金の使い道は、建物や家財の修復だけに制限されていません。被災後の生活費や住宅ローンの返済に充てることも可能です。
資産状況によって加入を検討すべき
被災した際の仮住まいや生活再建の費用を貯蓄でまかなえる場合は、地震保険の必要性は低いかもしれません。
一方、住宅ローンが残っている場合や資産に余裕がない場合は、地震保険に加入しておくと万が一に備えられるため安心です。
地震保険はあとから付帯することも可能
地震保険は必ずしも、マンション購入時に加入しなければならないわけではありません。火災保険しか加入していない場合でも、あとから地震保険を付帯することが可能です。
その場合、火災保険の残りの期間に応じて地震保険に加入します。火災保険を契約している保険会社で手続きできます。
マンションの地震保険の加入率・付帯率
ここでは、実際に地震保険に加入している人の割合を見てみましょう。
マンションに限らず、住宅全体における地震保険の加入率は年々上がってきています。2021年時点では、火災保険に加入している世帯のうち、地震保険に加入している割合は約70%となりました。
マンションの専有部分でも地震保険の加入率は上がっており、2021年度で74.9%となっています。
▼マンション専有部・共用部における地震保険付帯率の推移
一方で、マンション共有部の地震保険加入率は、2021年度時点で49.0%に留まっています。
しかし、構造躯体や外壁、屋根、階段といった共有部分の修繕には、多額の費用が必要となる場合もあります。マンションを購入する前に、保険の加入状況を管理組合に確認しましょう。
マンションの地震保険料の相場
地震保険に加入する際に支払う保険料を把握するにあたって、以下の3点を押さえておきましょう。
- 地震保険料は建物の構造と所在地によって決まる
- 免震性能や建築年により割引がある
- 契約年数によって地震保険料が安くなる
それぞれ説明していきます。
地震保険料は建物の構造と所在地によって決まる
地震保険料は国によって定められており、建物の構造と所在地によって決まります。
構造の分類
構造は以下のように、鉄筋コンクリート造などの「イ構造」と、木造などの「ロ構造」に分かれています。
イ構造 | 耐火建築物準耐火建築物省令準耐火建物など | 鉄骨造鉄筋コンクリート造鉄骨鉄筋コンクリート造など |
ロ構造 | イ構造以外の建物 | 木造など(※) |
マンションは一般的にイ構造に該当することが多いです。
ただし、近年では木造3階建ての共同住宅を木造マンションと表記することがあり、その場合はロ構造に該当します。
※木造でも、建築基準法上の耐火建築物・準耐火建築物、または省令準耐火建物に該当する場合は、イ構造となります。
所在地による保険料
地震の発生確率や住宅の密集度が地域ごとに異なるため、所在地によって保険料も変わります。
各都道府県における保険金額1,000万円あたりの保険料は、以下のとおりです。
▼保険金額1,000万円あたりの保険料(保険期間1年分)※イ構造
所在地(都道府県) | 保険料 |
北海道・青森県・秋田県・岩手県・栃木県・山形県・新潟県・群馬県・富山県・福井県・石川県・岐阜県・長野県・京都府・兵庫県・滋賀県・奈良県・島根県・鳥取県・広島県・岡山県・山口県・福岡県・熊本県・長崎県・佐賀県・大分県・鹿児島県 | 7,300円 |
宮城県・福島県・山梨県・大阪府・三重県・愛知県・和歌山県・愛媛県・香川県・宮崎県・大分県・沖縄県 | 11,600円 |
茨城県・高知県・徳島県 | 23,000円 |
埼玉県 | 26,500円 |
東京都・神奈川県・千葉県・静岡県 | 27,500円 |
免震性能や建築年により割引がある
建物の免震・耐震性能や建築年によって、地震保険料に以下の割引があります。
割引制度 | 割引率 | 条件 |
免震建築物割引 | 50% | 「住宅の品質確保の促進等に関する法律」で定める免震建築物である |
耐震等級割引 | 耐震等級3:50%耐震等級2:30%耐震等級1:10% | 「住宅の品質確保の促進等に関する法律」で定める耐震等級を有している |
耐震診断割引 | 10% | 改正建築基準法(1981年6月1日施行)の耐震基準を満たしている |
建築年割引 | 10% | 1981年6月1日以降に建てられたマンションである |
契約年数によって地震保険料が安くなる
地震保険の保険期間(契約年数)は、1~5年の間で選択可能です。
2~5年の長期契約の場合は、以下の係数をかけて保険料を算出します。契約年数が長くなるほど割引率が大きくなる仕組みです。
契約期間 | 係数 |
2年 | 1.9 |
3年 | 2.85 |
4年 | 3.75 |
5年 | 4.7 |
マンションの地震保険で契約できる保険金額
地震保険で支払う保険料だけでなく、保険金額(=補償される限度額)も把握しておきましょう。ポイントは以下の2つです。
- 地震保険の保険金額には上限がある
- 保険会社によって上乗せできる場合がある
それぞれ解説します。
地震保険の保険金額には上限がある
地震保険の保険金額(補償される金額)は、国によって定められています。以下のいずれも満たす金額で契約する必要があります。
保険金額の範囲 | 火災保険の契約金額の30%~50% |
保険金額の上限額 | 建物:5,000万円家財:1,000万円 |
なお、建物の上限5,000万円は専有部分だけでなく、共有部分もあわせて上限が5,000万円以内になります。以下の計算で確認しましょう。
- 「専有部分の保険金額+共用部分の保険金額×持分割合」≦5,000万円
保険会社によって上乗せできる場合がある
地震保険は「地震保険に関する法律」に基づいているため、補償内容・保険金額は原則としてどの保険会社でも同じです。
ただし、火災保険は各保険会社で運営されているため、オプションなどを独自に設定できます。保険会社によっては、火災保険に地震保険の補償を上乗せできる特約が用意されています。地震による損害の補償を厚くしたい場合は、特約部分を比較してみてください。
マンションの地震保険で支払われる保険金
マンションの地震保険で支払われる保険金は、損害の規模によって、全損から一部損までの4段階に分類されます。損害の規模に応じて、かけた保険金額の何%が支払われるかが決まる仕組みです。
損害の程度と支払われる保険金の割合は、以下のとおりです。
損害の程度 | 支払われる保険金 |
全損 | 地震保険の保険金額の100%(時価額が限度) |
大半損 | 地震保険の保険金額の60%(時価額の60%が限度) |
小半損 | 地震保険の保険金額の30%(時価額の30%が限度) |
一部損 | 地震保険の保険金額の5%(時価額の5%が限度) |
「時価」とは、保険対象と同等のものを新たに購入する際に必要な金額から経年劣化分・使用分・消耗分を差し引いた金額を指します。
建物・家財の損害認定基準について、以下で見ていきましょう。
建物の損害認定基準
地震保険における建物の損害認定基準は、以下のとおりです。
損害の程度 | 認定の基準(各々いずれかに該当する場合) |
全損 | 主要構造部(土台、柱、壁、屋根等)の損害額が、時価額の50%以上となった場合、または焼失もしくは流失した部分の床面積が、その建物の延床面積の70%以上となった場合 |
大半損 | 主要構造部(土台、柱、壁、屋根等)の損害額が、時価額の40%以上50%未満となった場合、または焼失もしくは流失した部分の床面積が、その建物の延床面積の50%以上70%未満となった場合 |
小半損 | 主要構造部(土台、柱、壁、屋根等)の損害額が、時価額の20%以上40%未満となった場合、または焼失もしくは流失した部分の床面積が、その建物の延床面積の20%以上50%未満となった場合 |
一部損 | 主要構造部(土台、柱、壁、屋根等)の損害額が、時価額の3%以上20%未満となった場合、または建物が床上浸水もしくは地盤面より45cmをこえる浸水を受け、建物の損害が全損・大半損・小半損・一部損に至らない場合 |
家財の損害認定基準
家財の損害認定基準は、以下のとおりです。
損害の程度 | 認定の基準(各々いずれかに該当する場合) |
全損 | 地震等により損害を受け、損害額が保険の対象である家財全体の時価額の80%以上となった場合 |
大半損 | 地震等により損害を受け、損害額が保険の対象である家財全体の時価額の60%以上80%未満となった場合 |
小半損 | 地震等により損害を受け、損害額が保険の対象である家財全体の時価額の30%以上60%未満となった場合 |
一部損 | 地震等により損害を受け、損害額が保険の対象である家財全体の時価額の10%以上30%未満となった場合 |
マンションの地震保険による所得税控除
支払った地震保険料に応じて、所得税や住民税が控除されます。
所得税の控除額は最高5万円です。年間の支払保険料が合計5万円以下の場合は、支払金額の全額が控除されます。
住民税は支払った保険料の2分の1の額、最高2万5,000円まで控除されます。
まとめ
地震保険は、地震が原因の火災や津波、損壊などによる損害を補償する保険です。
地震保険金の使い道は、建物や家財の修復だけに制限されておらず、被災後の生活費や住宅ローンの返済に充てることも可能です。加入しておくと、被災した際にも生活再建の見通しを立てやすくなると考えられます。
資産の状況や住宅ローンの借入金額によって、地震保険への加入を検討しましょう。購入予定のマンションで地震保険の加入に悩む場合は、まず不動産会社に相談してみてください。
弊社オークラヤ住宅では、マンション購入に関するご不安な点などのご相談を承っています。お気軽にご相談ください。
著者情報

ライター・編集者
悠木まちゃ
【経歴】
ハウスメーカー勤務時に、新築戸建て住宅や事務所建築などの営業・設計を経験してきました。
その後、2019年よりフリーライター・編集者として活動を開始。実務経験を活かし、不動産・金融系を中心に執筆から編集までおこなっています。
取材やブックライティングもおこなうほか、ライター向けオンラインコミュニティの講師も担当しています。
保有資格:宅建士・FP3級