近年、高齢者向けのローン商品であるリバースモーゲージに注目が集まっています。
自宅や土地を担保にするこの制度では、毎月の返済が利息のみで済み、生活資金に不安がある方でも活用しやすい点が魅力のひとつです。
しかし、融資金を使い切る可能性や金利上昇によるリスクがあるなど、事前に知っておくべきデメリットもあります。
そこで本記事では、リバースモーゲージの概要、メリット・デメリット、活用事例について解説します。
目次
リバースモーゲージとは
リバースモーゲージとは、自宅や土地を担保にして金融機関から融資を受ける方法です。
50~60歳以上の高齢者を対象とした融資で、契約者が亡くなった際、自宅の売却などによって元金の返済をおこないます。
月々の支払いはローンの利息部分のみでよく、返済負担が軽いことが大きなメリットです。
住宅ローンとの違い
リバースモーゲージと住宅ローンの違いは、主に「返済方法」と「不動産の所有状況」の2つです。
住宅ローンは、元金と利息を合わせた金額を毎月支払い、借り入れた元金が徐々に減っていきます。一方、リバースモーゲージで毎月支払うのは利息のみです。契約者が亡くなったあとで、元金を一括返済するのが特徴です。
また、住宅ローンはこれから住宅を購入するためのローンです。これに対してリバースモーゲージは、すでに所有している住宅や土地を担保に借りる融資であり、不動産を所有していない人は借りられません。
リースバックとの違い
リースバックとは、自宅などの不動産をリースバック事業者に売却したのち、買主である事業者と賃貸借契約を結び、借主として住み続ける方法です。
自宅や土地を売却するため所有権は失ってしまいますが、家賃を支払いながら、今までと同じ自宅に住み続けることができます。
売却によってまとまった資金が得られるため、個人だけでなく、企業が事業資金を調達するためにも多く利用されています。
一方、リバースモーゲージでは契約者が亡くなり売却するまでは、不動産の所有権を失わずに住み続けることが可能です。所有権が自分にあるため、リフォームや建てかえもおこなえます。
リバースモーゲージの取り扱い機関による違い
リバースモーゲージを取り扱っている機関には、公的機関と民間金融機関があります。
自宅に住みながら不動産を担保に借り入れできるという仕組みはどちらも同じですが、取り扱い機関によって利用条件が異なります。
公的機関のリバースモーゲージ
公的機関のリバースモーゲージとは、社会福祉協議会による不動産担保型生活資金の貸し付けです。
低所得の高齢者世帯を対象としており、資金の使い道が原則として生活資金に限定されている点が特徴です。また、契約時の年齢条件は65歳以上で、民間金融機関よりも対象者が限られます。
申し込み先は、各都道府県の社会福祉協議会です。
民間金融機関のリバースモーゲージ
民間金融機関のリバースモーゲージは2種類あります。住宅金融支援機構が展開する「リ・バース60」と各金融機関が独自で展開している融資です。
住宅支援機構が提供しているリ・バース60は、資金の使い道が主に住宅の建築・購入やリフォームの資金に限られており、生活資金には利用できません。
一方、金融機関独自のリバースモーゲージは、資金の使い道が比較的自由です。融資商品によって、住宅の建築・購入費用だけではなく、生活資金に利用できるものもあります。
また、50歳から借り入れできる金融機関もあり、公的機関による貸し付けよりも対象者が広くなっています。
リバースモーゲージの利用条件や資金の使い道
リバースモーゲージの利用条件や資金の使い道は、一般的な住宅ローンとは異なります。それぞれ見ていきましょう。
リバースモーゲージを利用できる条件
リバースモーゲージを利用できる条件は、金融機関によっても異なります。
主な条件として、以下の3つが挙げられます。
- 高齢者であること
- 住宅を所有していること
- 資金使途が事業用や投資用でないこと
リバースモーゲージは高齢者向けの融資であるため、利用できる年齢の条件は高めに設定されている場合がほとんどです。
一般的には50~60歳以上で設定されますが、金融機関によってはより高年齢な方、あるいは若い方を対象としている場合があります。利用を検討される方は、ご自身が該当しているか、事前に確認しましょう。
また、リバースモーゲージは自宅や土地を担保とするローンのため、不動産を所有していなければ利用できません。金融機関によっては、住宅ローンの返済が完了しており、資産価値が一定水準以上であることが求められる場合もあります。
資金使途は借入先によって異なりますが、事業用や投資用として使えないことは、いずれの金融機関でも同じです。
リバースモーゲージの資金の使い道
リバースモーゲージの資金の使い道は金融機関によって異なり、主に以下の6つが挙げられます。
- 老後の生活資金
- 医療・介護費
- 住宅ローンの返済
- 自宅のリフォーム、建てかえ、住みかえ資金
- 老人ホームの入居一時金
- レジャー費
リバースモーゲージの借入金は、老後の生活資金や医療、介護費としての活用が可能です。
また、自宅のリフォームや建てかえ費用としての活用もできます。老後を迎えると生活スタイルが変化するため、現在の住居が合わなくなり、住みかえやリフォーム、建てかえなどを希望する方は多いでしょう。
そのほか、住宅ローンの返済にも使えます。会社を定年退職したのち、住宅ローンの残債をリバースモーゲージによって完済している方も少なくありません。
生活費は足りているものの、リタイア後の生活をより豊かにするために、レジャー費などをまかなう目的でリバースモーゲージを利用するケースもあります。
リバースモーゲージのメリット
リバースモーゲージのメリットは、主に以下の4つです。
- 毎月の返済は利息分のみでよい
- 高齢でも融資が受けられる
- 自宅に住み続けながら老後資金の借り入れができる
- 借入金の使い道の自由度が高い
それぞれ解説しています。
毎月の返済は利息分のみでよい
リバースモーゲージの大きなメリットは、毎月の返済が利息のみで済むことです。元金の返済は契約者の死亡後、自宅の売却によって一括でおこなわれるため、それまでは利息のみを支払う仕組みです。
通常の住宅ローンでは元金と利息を合わせた金額を毎月返済しますが、それと比べるとリバースモーゲージでは返済負担が大幅に軽減されます。
この融資により、年金生活者や収入が限られている高齢者でも、無理なく資金を調達できます。
高齢でも融資が受けられる
リバースモーゲージは、高齢者も融資を受けられる点がメリットです。
一般的な住宅ローンでは完済時の年齢が定められており、高齢者が新たに借り入れをするのは難しい場合があります。
しかし、リバースモーゲージは50歳以上や60歳以上の方を対象としており、なかには80歳まで申し込める商品もあります。こうした特徴は、契約者が亡くなったあとに、担保である自宅を売却して一括返済するという仕組みに起因します。
この制度により、高齢になってからも資金調達をしやすくなります。
自宅に住み続けながら老後資金の借り入れができる
担保にした自宅を手放すことなく、そのまま住み続けられる点もリバースモーゲージの特徴です。
不動産を売却して資金を得る方法とは異なり、生活環境が変わることはありません。今までどおりの生活を続けながら、融資を受けられます。
ただし、契約者が亡くなったあとは、担保である不動産を売却して元金を返済する必要があります。
借入金の使い道の自由度が高い
リバースモーゲージの魅力のひとつは、借入金の使い道に関する自由度の高さです。
多くの金融商品では資金使途が限定されていますが、リバースモーゲージでは比較的自由に資金を活用できます。
たとえば、リフォーム・建てかえの費用のほか、老後の生活費、医療・介護費、レジャー費などが挙げられます。幅広い用途に利用可能なことで、より豊かなセカンドライフを送れる可能性が高まるでしょう。
ただし、金融機関によって使途に制限がある場合もあるため、契約前の確認が重要です。
リバースモーゲージのデメリット
リバースモーゲージには、以下のようなデメリットもあります。
- 長生きすると融資金を使い切る可能性がある
- 金利や不動産価値の変動リスクがある
- 利用するには契約者・同居人・相続人の条件がある
ひとつずつ見ていきましょう。
長生きすると融資金を使い切る可能性がある
リバースモーゲージのデメリットのひとつは、長生きすることで融資金を使い切ってしまう可能性があることです。
通常は、担保に入れた不動産の評価額に応じて融資の上限額や期限が設定されます。そのため、想定以上に長生きした場合、融資の限度額まで使い切ってしまう恐れがあるのです。
融資が途絶えると、生活費や医療費の支払いに支障をきたす状況になるかもしれません。場合によっては、自宅を売却して返済に充てる必要があり、住む家を失うリスクが考えられます。
このリスクを軽減するためには、リバースモーゲージを老後資金の一部としてとらえ、ほかの収入源と合わせて生計を立てることが重要です。
金利や不動産価値の変動リスクがある
リバースモーゲージは自宅や土地を担保に借入れるため、その不動産の価値が下落した場合、融資の限度額が見直される可能性があります。もし借入残高が融資限度額を上回ると、超過額は返済しなければなりません。
また、金利が上昇した場合、返済負担が増える可能性があります。全期間固定金利を選択している場合は金利上昇の影響を受けませんが、変動金利の場合、金利が上昇すれば返済負担が増加します。
変動金利を利用する場合は、金利が上昇するリスクを考慮し、余裕を持った資金計画を立てる必要があるでしょう。
利用するには契約者・同居人・相続人の条件がある
リバースモーゲージは誰でも利用できるわけではなく、契約者・同居人・相続人などに条件が設けられています。たとえば、契約者には年齢や収入の条件があります。
さらに、子供と同居している場合は、借り入れできない金融機関が多くなっています。契約者が亡くなった場合に、元金の一括返済もしくは自宅の売却をする必要があるためです。
家を売却すると同居人は住む場所を失うため、子供と同居している場合はリバースモーゲージを利用できないケースが珍しくありません。
また、リバースモーゲージを利用すると、相続人は自宅を相続できなくなる可能性があることから、推定相続人の同意がなければ契約できない金融機関もあります。
一方、同居人が配偶者のみである場合は、契約者が亡くなっても配偶者に融資を引き継ぎ、継続して居住できる制度にしている金融機関もあります。
リバースモーゲージはこんな人におすすめ
ここまでの内容を踏まえると、リバースモーゲージは以下のような方におすすめです。
- 老後まで住宅ローンが残り、返済に頭を悩ませている方
- 年金や退職金だけでは生活資金に余裕がない方
- セカンドライフを充実させたい方
- 生活資金はあるが、いざというときのために資金を確保しておきたい方
- 住宅を相続する子供がいない方
- 将来は有料老人ホームに入居しようと考えている方
一般の住宅ローンと比べて高齢者も借りやすいため、老後の生活資金や住宅ローン返済の資金を準備したい方におすすめです。
また、将来的に老人ホームへ入居したいと考えている方も多いでしょう。老人ホームの入居費用は安くありませんが、リバースモーゲージならまとまった資金を得られるため、入居費用の一時金に充てられます。
ただし、リバースモーゲージを利用した場合、亡くなったあとには担保にした不動産を売却しなければなりません。
利用を検討する際は、「生存中に自宅を売却する予定がないこと」「自身が亡くなったあと、家族に自宅を相続する必要がないこと」が前提条件となることを理解しておきましょう。
リバースモーゲージの活用事例
ここでは、実際にリバースモーゲージを活用した方の事例を2つ紹介します。
事例1:ダウンサイジング住みかえを実現した例
70代前半のAさんご夫婦。現在は年金受給者です。子供が独立して今の戸建住宅は広すぎると感じています。今の家を売却して、夫婦二人にちょうどいい広さで毎日の買い物や通院に便利な物件に住みかえたいと考えました。しかし、老後のために預貯金は残しておきたいのです。
- 資金使途:駅から徒歩5分の2LDKの中古マンション購入
- 所要資金:3,000万円
- 担保評価額:3,000万円(購入物件の担保評価)
- 担保掛目:50%
- 融資限度額:1,500万円
- 借入額:1,500万円
- 金利:3%の場合
- 自己資金:1,500万円(退職金で一時的に手当て)
- 毎月の金利支払:37,500円
今まで住んでいた自宅は、その後売却されました。退職金で一時的に支出したお金も売却資金で回収できました。余剰資金でリバースモーゲージの借入金も一部返済しておこうと考えています。
事例2:子供世帯との近居を実現した例
60代後半で自営業のBさん。今の住まいは郊外のマンションですが、子供が同じ沿線の都心に近いところに住んでいます。子供夫婦は共働きのため子育てを支援をしてあげたいとの思いがあります。そのため、近所に住みかえたいのですが現金で一括支払いしてしまうと手持ちの預貯金が少なくなってしまいます。
- 資金使途:子供夫婦の近所の2LDKの中古マンション購入
- 所要資金:2,500万円
- 購入物件の担保評価額:2,500万円
- 担保掛目:50%
- 融資限度額:1,250万円
- 今の自宅の担保評価額:2,000万円
- 担保掛目:50%
- 融資限度額:1,000万円
- 2つを合わせた融資限度額:2,250万円
- 借入額:2,200万円
- 金利:3%の場合
- 自己資金:300万円
- 毎月の金利支払:55,000円
今回の事例では、購入する物件にも、今の自宅にも担保設定をして、自己資金をほとんど使わずに住みかえを実現されました。毎月の金利支払いの負担はあるものの、自営業での収入でまかなえるとの判断をされたようです。
今の自宅を売却するかどうかは、家族と話し合って決めたいということです。
まとめ
老後資金の不足解消や、住宅のリフォーム・建てかえ資金確保のためにリバースモーゲージは有効な方法といえます。
担保とする自宅や土地はご自身が亡くなったあとに売却されますが、引き継ぐ予定のない方にとっては、大きなリスクにはならないでしょう。
ただし、リバースモーゲージは年齢、資金使途、融資期間などの条件・内容が金融機関によって異なります。大まかな特徴を把握したうえで、最適なプランを考えていきましょう。
弊社オークラヤ住宅でも、売却・購入に関するご相談を以下より無料で承っております。
無料売却査定|マンション売却・購入・住みかえならオークラヤ住宅
不安な点などありましたら、お気軽にご相談ください。
著者情報
ライター・編集者
悠木まちゃ
【経歴】
ハウスメーカー勤務時に、新築戸建て住宅や事務所建築などの営業・設計を経験してきました。
その後、2019年よりフリーライター・編集者として活動を開始。実務経験を活かし、不動産・金融系を中心に執筆から編集までおこなっています。
取材やブックライティングもおこなうほか、ライター向けオンラインコミュニティの講師も担当しています。
保有資格:宅建士・FP3級