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いよいよ始まる都心飛行 ~羽田新ルートが不動産に与える影響とは~

いよいよ始まる都心飛行 ~羽田新ルートが不動産に与える影響とは~

いよいよ2020年3月29日より、羽田空港の離発着数増加に伴い、飛行ルートの変更が行われます。2月上旬には、実際の旅客機が使われた飛行試験が行われ、通過する飛行機を見て驚かれた方もいらっしゃるのではないでしょうか。

今回は、運航開始前に都心の飛行ルートの再確認と不動産に与える影響について、考えてみましょう。

※2021年7月に一部編集を行いました。

〈目次〉
1、飛行ルート変更の経緯
2、飛行予定のルートの詳細と飛行時間帯
3、航空機の騒音と不動産市況
4、まとめ

1、飛行ルート変更の経緯

政府は、2010年の羽田国際線ターミナル開業を皮切りに、羽田の国際線の拡充を推進してきました。

そして、東京オリンピック・パラリンピックの開催決定やインバウンド需要の高まりを受けて、さらなる国際線の拡充を図る予定でいます。また、経済や社会発展において、諸外国との結びつきは重要とし、アジアの空港の中でも遅れている“首都空港強化”を目指しています。

しかし課題だったのが、都心に近い羽田空港の離着陸の制限でした。今までの羽田空港を離着陸する飛行機は、騒音や事故の発生を考慮して、人口が密集する「都心上空」は回避するルートを飛行していました。

離陸の場合、北に向かう飛行機は東京湾で高度を上げた後に浦安や市川の沿岸部から陸に入り目的地に向かい、南や西に向かう飛行機は、東京湾を大きくUターンし、高度を上げた後、川崎あたりから陸に入り西に向かうルートとなっています。

着陸の場合、千葉県の房総半島の上空で北から来た飛行機と西から来た飛行機を合流させて東京湾を横断する形で着陸させていました。

いずれの場合も東京湾を旋回場所として使用するため、航空路が混雑しており、これ以上の離着陸の増加は見込めない状況になっています。

そこで、比較的余裕がある都心上空を通過する羽田空港の北側からの着陸が検討されました。

今回の新飛行ルートによる増便分は、すべて国際線に充てられます。これにより、国際線の発着回数は現行の約1.7倍の年間9.9万回に増える見込みです。

2、飛行予定のルートの詳細と飛行時間帯

新航路は2本設定されています。さらにその中でも好天時と悪天時で少し航路が変わっています。
いずれも東京23区へは、埼玉県戸田市・さいたま市上空から荒川を渡り板橋区や練馬区上空から都内へと進入をしてきます。

好天

悪天                              出典:羽田空港のこれから

板橋区や練馬区から南下してきた飛行機は、
①新宿→表参道→広尾→白金→品川→天王洲と直進し、羽田空港C滑走路に向かうルート
②練馬区、板橋区から東中野→渋谷→恵比寿→目黒→大井町→羽田空港B滑走路へとルートに分けられます。
①のルートは山手線のやや内側、②のルートは山手線の真上を飛行するような位置関係です。いずれの航空路も新宿や中野近辺から高度1000mを切り始めるようになってきます。

都心の飛行は南風時の15時から19時の外国からの到着機が混雑する時間帯に行われ、通過頻度は①のルートで30本/時間、②のルートで14本/時間とされています。結構な頻度で上空を通過することが予想されます。

2021年7月に都心上空を通過する飛行機に搭乗する機会があったので、渋谷上空と品川上空を撮影してみました。

3、航空機の騒音と不動産市況

今年の1月の終わりから2月の中旬にかけて、実際の乗客が搭乗している飛行機を使った実機の飛行テストが実施されました。

普段飛行しない地域だけに、ご覧になった方は飛行機の大きさや音に驚かれたと思います。私も品川区の天王洲で飛行機を見ましたが、羽田空港に近いのもあって、すぐ真上を通過していった感じを受けました。

筆者は福岡生まれで、街中を飛行機が飛ぶこと自体は慣れていたはずですが、東京は建物が高い分、飛行機が近い気がしました。

飛行機の通過が不動産や地域に与える影響については、詳しい調査や報告はありません。アメリカで騒音と不動産の価格についての論文が発表されたぐらいだと言われています。

1994年にBooz-Allen & Hamilton, Inc. というアメリカのコンサルティング会社がアメリカの航空局に提出した「 The Effect of Airport Noise on Housing Values(住宅の価値に対しての飛行機騒音の影響)」によると、飛行機の騒音が1㏈上がるごとに1.33%の下落がみられたそうです。(調査空港:ロサンゼルス国際空港)
この報告によって不動産の価格と飛行機の騒音は因果関係があると立証されています。

東京都では、都知事によって騒音に係る環境基準を定めています。
そこには、各用途地域によって基準は異なりますが、住居を中心とした地域の昼間の環境基準は55㏈から60㏈以下、駅に近いような商業地域の昼間の環境基準は、60㏈から65㏈と定められています。

では、今回の新ルートによる各地の音のレベルはどれほどになるのでしょうか。表にまとめてみました。

表3

今回の飛行経路には、いわゆる東京屈指の高級住宅街である、代官山、麻布、白金、高輪地域や商業の中心地である新宿、渋谷、品川地域が含まれています。

渋谷のスクランブル交差点付近などの駅前や商業地は、もともと様々な音が発生している場所なので、飛行機通過が加わったとしても騒音は感じにくいかもしれません。

しかし、代官山や麻布、白金といった住宅街が多い地域では、普段静かな反面、飛行機が通過した際の騒音は大きな影響を及ぼすことが予想されます。実際に表を見ると都が定める環境基準を上回っています。

また、これらの地域には高層ビルやタワーマンションが多く建っている地域です。品川付近の高度が約400mですので、40階建て、高さが150mほどにもなる高層マンションとの差は約250mとなり飛行機をより間近に感じられ、騒音も大きく聞こえてくることが予想されます。

したがって、新ルートの運用が開始された後は、これらの地域の不動産市況に何らかの影響が出てくるものと考えられます。

4、まとめ

現状のところ、不動産価格への大きな影響も見られません。ただこれは、まだ経験したことのないことで、人々がまだ判断できないということが影響しているのではないかと思われます。延べ7日間だけの実機飛行では、なかなか実感も湧かなかったのではないでしょうか。

都市上空を飛んでいる有名な例として、福岡市と大阪市があります。しかし、それらの地域はもともと航空法によって建物の高さ制限が厳しい地域であり、今回の東京都心のような高層な建物が建ち並ぶ地域を飛行することは、日本では初めてと言っていいでしょう。

よって、今まで経験がないだけに、不動産の価格や人の生活などに影響が生じてくるのは、新ルートの運用開始後になりそうです。

参考:「羽田空港のこれから」

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