差し押さえとは、借金や税金の滞納が続いた場合に、債権者が財産を強制的に回収する手続きです。給与や預貯金、不動産などが差し押さえの対象となり、生活に大きな影響を及ぼす可能性があります。
本記事では、差し押さえの原因や対象となる財産、手続きの流れを解説するとともに、差し押さえを回避する方法も紹介します。
ご自身や家族の生活を守るために、住宅ローン滞納によるリスクや、マンション売却という選択肢を理解しておきましょう。
目次
差し押さえとは

差し押さえとは、借金や税金などの支払いを滞納した場合に、債権者が強制的に債務者の財産を確保する手続きのことです。
債権者は裁判所に民事執行法に基づいて申し立てをおこない、差し押さえ命令を得ることで、債務者の財産を換金して債権の回収にあてることができます。差し押さえられた財産は、債務者が自由に処分できなくなり、最終的には競売などにより換金されます。
差し押さえは、債権回収の最終手段であり、債務者にとっては経済的に深刻な影響を及ぼす可能性があるものです。そのため、差し押さえに至る前に、対策を検討することが重要です。
差し押さえられる主な原因

差し押さえの主な原因として、以下の3つが挙げられます。
- 住宅ローンなどの滞納
- 税金の滞納
- 養育費・婚姻費用の未払い
これらの状況や差し押さえに至るまでの流れについて見ていきましょう。
住宅ローンなどの滞納
住宅ローンの滞納が続くと、金融機関は担保となっている住宅を差し押さえ、競売による売却代金から残債を回収しようとします。
滞納が発生すると、まず金融機関から督促状が送付されます。その後も返済がされない場合、ローンの一括返済を求める通知が届きます。この通知を無視すると、保証会社が代位弁済をおこない、最終的には裁判所を通じて差し押さえの手続きが開始される流れとなります。
税金の滞納
税金の滞納とは、所得税や住民税、固定資産税などを期限内に納付しない状態を指します。税金は国や地方自治体の財源であり、滞納が続くと厳しい回収措置が取られます。
通常、納期限を過ぎると、まず督促状が送付されます。それでも納付がない場合、国や地方自治体は、滞納者の財産を差し押さえることができます。
税金滞納による差し押さえの特徴として、住宅ローンの滞納とは異なり、裁判所の許可なしに行政機関が直接差し押さえを執行できる点が挙げられます。
養育費・婚姻費用の未払い
養育費や婚姻費用の未払いも、差し押さえの原因となります。支払いが滞ると、元配偶者などが裁判所に強制執行の申立てをして、差し押さえがおこなわれる可能性があります。
差し押さえをおこなうのは、債権者である元配偶者または債権者の代理人(弁護士など)です。
ただし、全ての未払いが差し押さえに至るわけではなく、当事者間の交渉や調停などで解決できる場合もあります。
差し押さえの対象となる財産

万が一の事態に備えるうえで、差し押さえの対象となる財産を知っておくことは重要です。差し押さえの対象となる財産は多岐にわたり、主に以下の5つが挙げられます。
- 給料
- 預貯金
- 不動産
- 動産
- 債権
給料
給料は差し押さえの対象となりますが、債務者の生活を保護するため、全額が差し押さえられるわけではありません。
原則として、手取り額の4分の3は差押禁止とされており、差し押さえられるのは4分の1までです。ただし、手取り額が44万円を超える場合は、33万円を超える部分の全額が差し押さえの対象となります。
給料の差し押さえは、債権者が裁判所に申立てをして、裁判所が債務者の勤務先に差押命令を出すことでおこなわれます。勤務先は、差押命令に従って給料から一定額を差し引き、債権者に支払うことになります。
預貯金
預貯金は、普通預金、定期預金、当座預金など、形態を問わず全ての預貯金が差し押さえの対象となります。債権者が裁判所に申立てをして、裁判所が金融機関に差押命令を出すことで執行されます。
差し押さえの対象となる金額は、滞納している債務額に相当する金額であり、預貯金の全額が差し押さえられることもあります。
ただし、差し押さえ命令が金融機関に届いた時点の残高が対象となり、その後の入金分は新たな差し押さえ手続きがおこなわれない限り対象外となります。
不動産
不動産とは、土地や建物のことです。マンションや一戸建てなどの自宅のほか、投資用に所有している不動産などが対象となります。
住宅ローンの滞納や税金の未払いが続くと、債権者は裁判所を通じて不動産の差し押さえ手続きをおこない、最終的には競売にかけられることがあります。競売により得られた売却代金は、滞納している債務の返済に充てられます。
動産
動産とは、不動産以外の形のある物のことです。具体的には、以下のようなものが該当します。
- 貴金属、宝石
- 骨董品
- 高級時計、ブランド品
- 家具
- 電化製品
動産の差し押さえは、執行官が自宅などを訪問し、直接、動産を差し押さえることでおこなわれます。動産執行(動産の差し押さえ)とは、債権回収の場面で、債務者が裁判で敗訴して支払いを命じる判決が出ても支払いをしない場合に、債務者の経営する店舗や自宅に立ち入り、そこで発見した債務者の財産を強制的に売却して、債権の回収にあてる手続きです。差し押さえられた動産は、競売や入札などによって売却され、その売却代金は債権回収に充当されます。
債権
債権とは、他者に対して金銭や物品の給付を請求できる権利を指します。具体的には、家賃収入、売掛金、保険の解約返戻金などが該当します。
差し押さえ手続きでは、債権者が裁判所を通じてこれらの債権を差し押さえ、直接回収することが可能です。
差し押さえの対象とならない財産

差し押さえは、全ての財産が対象となるわけではありません。債務者の生活保障や、社会的な公平性を考慮し、法律によって差し押さえが禁止されている財産もあります。
ここでは、差し押さえの対象にならない主な財産について解説します。
- 66万円までの現金
- 生活・業務に必要なもの
- 公的な給付金
- 本人以外の所有物
66万円までの現金
債務者の生活を維持するため、66万円以下の現金は差し押さえが禁止されています。標準的な世帯が2か月間生活するのに必要な金額が66万円とされており、債務者の最低限の生活を保障するための措置です。
ただし、66万円を超える現金については、差し押さえの対象となる可能性があります。
生活・業務に必要なもの
生活や業務に必要不可欠なものも、差し押さえの対象とはなりません。これらは「差押禁止動産」として、民事執行法で定められています。
生活に必要なものとしては、衣服、寝具、家具、台所用品、家電製品(冷蔵庫、洗濯機、テレビなど)などが挙げられます。
業務に必要なものは、仕事で使う道具、器具などです。たとえば、農家の必要最低限の器具、漁師の漁網や漁具、大工の工具、医師の医療器具などが該当します。
これらの財産は、債務者が生活を立て直し、経済的に自立するために必要不可欠であることから、差し押さえが禁止されています。ただし、高級な家具や、複数台ある家電製品などは、差し押さえの対象となる場合があります。
公的な給付金
公的給付金は、受給者の生活を支えるためのものであり、法律で差し押さえが禁止されています。具体的には、主に以下のような給付金が該当します。
- 生活保護費
- 児童手当
- 年金(国民年金、厚生年金など)
- 失業保険(雇用保険の基本手当)
- 労災保険
これらの給付金は、金融機関の口座に振り込まれたあと、預貯金の扱いとなり、差し押さえの対象となる場合があります。そのため、ほかの資金と混在しないよう専用の口座を設けるなどの対策が推奨されます。
本人以外の所有物
差し押さえの対象となるのは、原則として債務者本人の財産のみです。家族や第三者が所有する財産は、たとえ債務者と同居していても、差し押さえの対象にはなりません。
たとえば、配偶者が購入した動産や、子どもの学用品などは差し押さえられません。ただし、名義を偽装して財産を隠す行為は法律で禁じられており、発覚した場合は差し押さえの対象となる可能性があります。
差し押さえの流れ

ここでは、差し押さえがおこなわれる際の一般的な流れと、以下の各手順について解説していきます。
- 申立て
- 差し押さえ
- 換価等
- 配当等
1. 申立て
申立てとは、債権者が裁判所に対して、債務者の財産を差し押さえる許可を求める行為を指します。この段階で債権者は、債務名義(判決書や支払督促など)を提示し、債権の存在を証明する必要があります。
申立ては民事執行法に基づいておこなわれ、債権者が執行裁判所に申立書を提出することで開始されます。
2. 差し押さえ
裁判所が債権者の申立てを認めると、債務者に対して差押命令が発令されます。この命令は、債務者および第三債務者(たとえば、債務者の勤務先や銀行など)に送付され、債務者の財産や給与、預貯金などが差し押さえの対象となります。
差押命令が発令されると、債務者はその財産を自由に処分することが制限されます。
3. 換価等
換価等とは、差し押さえられた財産を現金化することを指します。これには、不動産や動産の競売、預金の取り立て、給与の差し押さえなどが含まれます。
換価の方法は財産の種類によって異なり、たとえば不動産の場合は競売がおこなわれ、預金の場合は金融機関から直接取り立てがおこなわれます。
4. 配当等
配当は、換価等によって得られた金銭を債権者に分配する最終段階です。複数の債権者がいる場合、各債権者の優先順位や債権額に応じて配当がおこなわれます。
配当の手続きは裁判所が管理し、配当表を作成して各債権者に通知します。
差し押さえによる影響と生活への支障

ここでは、差し押さえによる影響と生活への支障について解説します。
- 借金・税金の滞納を勤務先に知られる
- 親族や近隣住民に知られる可能性もある
- クレジットカードが利用できなくなる
借金・税金の滞納を勤務先に知られる
差し押さえのなかでも、給料の差し押さえは、勤務先に借金や税金の滞納を知られてしまうというデメリットがあります。
給料の差し押さえは、裁判所から勤務先に「差押命令」が送達されることでおこなわれます。差押命令を受け取った勤務先は、債務者(従業員)への給料の支払いを停止し、差し押さえられた金額を裁判所や債権者に支払う義務を負います。
そのため、勤務先の経理担当者や上司には、滞納の事実が知られてしまいます。
親族や近隣住民に知られる可能性もある
差し押さえは、勤務先だけでなく、親族や近隣住民に滞納の事実を知られてしまう可能性もあります。
たとえば、自宅が差し押さえられた場合、裁判所の競売情報が公開され、誰でも閲覧できるようになります。この情報には、物件の所在地、写真、間取りなどが掲載されるため、近隣住民に知られる可能性が高まります。
執行官が自宅を訪問し、動産の差し押さえをおこなう際に、近隣住民に目撃されることもあります。さらに、保証人や連帯保証人を立てている場合は、債務者が返済できなくなると、保証人や連帯保証人に請求が行われるため、滞納の事実を知られることになります。
クレジットカードが利用できなくなる
差し押さえがおこなわれるような状況では、信用情報機関に延滞情報が登録されている可能性が高く、クレジットカードの利用が制限される、または強制解約される可能性が高いです。
信用情報機関とは、クレジットカードやローンの利用履歴、支払い状況といった信用情報を管理している機関です。クレジットカード会社は、カードの審査や途上与信の際に、信用情報機関の情報を参照します。
長期延滞等の事故情報が登録されていると、クレジットカード会社は「返済能力に問題あり」と判断し、カードの利用を停止したり、強制解約したりすることがあります。また、新規のクレジットカードの作成や、ローンの利用も難しくなります。
差し押さえを回避・解除する方法

差し押さえは、債務者にとって経済的、精神的に大きな負担となる手続きです。しかし、適切な対策を講じることで、差し押さえを回避したり、すでに開始された差し押さえを解除したりすることが可能です。
ここでは、税金や借金を滞納している場合に、差し押さえを回避・解除するための方法について解説します。
税金を滞納している場合
税金を滞納している場合は、滞納分の一括納税や、分割納付・延納などを相談することが対策として挙げられます。
滞納分を一括納税する
税金の滞納による差し押さえを回避・解除する確実な方法は、滞納している税金を一括で納付することです。
一括納付するためには、預貯金を取り崩したり、親族から借りたりして、現金を用意する必要があります。税務署に連絡して納付書を再発行してもらい、金融機関やコンビニエンスストアなどで納付しましょう。
一括納付が完了すれば、税務署は差し押さえの手続きを停止・解除します。ただし、延滞税は別途納付する必要があります。
分割納付、延納などを相談する
税金の滞納分を一括で納付することが難しい場合は、税務署に分割納付や納付の猶予(延納)を相談してみましょう。納税者の状況に応じて、柔軟に対応してくれる場合があります。
分割納付とは、滞納している税金を複数回に分けて納付する方法です。延納は、納付期限を一定期間延長してもらうことです。これらの制度を利用するためには、税務署に申請書を提出し、承認を得る必要があります。
借金を滞納している場合
借金を滞納している場合は、借金の一括返済や債務整理が選択肢となります。
一括返済する
借金の滞納による差し押さえを回避・解除するには、滞納している借金を一括で返済するのが確実です。債権者(金融機関など)に連絡し、返済方法や振込先口座などを確認して返済をしましょう。
一括返済が完了すれば、債権者は裁判所に対し、差し押さえの取り下げ手続きをおこないます。
しかし、一括返済は現実的には難しい場合が多いでしょう。その場合は、次の項目の債務整理も選択肢のひとつとなります。
債務整理をする
借金の滞納による差し押さえを回避・解除するための方法として、債務整理も挙げられます。債務整理とは、借金の減額や免除、支払期間の猶予など、借金問題を解決するための法的な手続きの総称です。
債務整理には、主に「任意整理」「個人再生」「自己破産」の3つの方法があります。どの方法を選択するかは、借金の額や収入、財産の状況などによって異なります。
弁護士や司法書士などの専門家に相談し、最適な方法を選択することが重要です。債務整理の手続きを開始すると、債権者からの取り立てや差し押さえが停止される場合があります。
住宅ローンの返済が困難な場合は売却の検討も

住宅ローンの返済が困難になり、滞納が続きそうな場合は、早めにマンションの売却を検討することも、差し押さえを回避するための有効な手段です。マンションを売却し、その売却代金で住宅ローンを完済できれば、差し押さえを回避できます。
マンションの売却を検討する際は、まず不動産会社に査定を依頼し、どの程度の金額で売却できそうかを確認しましょう。住宅ローンの残債や、売却にかかる諸費用を考慮し、売却するかどうかを判断します。
まとめ

差し押さえは、住宅ローンや税金の滞納、養育費の未払いなどが原因で発生し、預貯金や不動産といった財産が強制的に回収される制度です。
差し押さえを回避するには、滞納分の一括納税や返済、債務整理などの方法があります。また、住宅ローンの返済が困難な場合は、マンション売却も選択肢のひとつです。もし差し押さえのリスクに直面している場合は、早急に対策を講じることが重要です。
弊社オークラヤ住宅では、マンション売却のご相談を承っており、状況に応じたアドバイスをおこなっています。
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著者情報

ライター・編集者
悠木まちゃ
【経歴】
ハウスメーカー勤務時に、新築戸建て住宅や事務所建築などの営業・設計を経験してきました。
その後、2019年よりフリーライター・編集者として活動を開始。実務経験を活かし、不動産・金融系を中心に執筆から編集までおこなっています。
取材やブックライティングもおこなうほか、ライター向けオンラインコミュニティの講師も担当しています。
保有資格:宅建士・FP3級