不動産の売却というのは、一生に一度あるかないかだとよく言われことがありますが、住み替えや資産処分などで不動産売却を経験されることもあるでしょう。

金額が大きな不動産を売却する際の手続きはそう簡単ではありません。何度も経験するものではないだけに、しっかりと必要書類を整え、手続きを順に踏んでいくことが必要です。

しかし、売却事情は皆それぞれ。今回はよくお問い合わせいただく「こういった時どうすればいいの?」といった「イレギュラーなケース」を3つ挙げて、注意点などをまとめてみました。

<目次>
1、共有名義
(1)共有名義とは
(2)共有不動産売却の注意事項
2、登記済証の紛失
(1)登記済証とは
(2)登記済証紛失時の売却
3、海外居住時に日本の不動産を売却
(1)本人確認と署名証明(サイン証明)の作成
(2)代理人契約
(3)非居住者の源泉徴収制度
(4)納税管理人の選任
(5)全体の注意点
4、まとめ

1、共有名義

(1)共有名義とは
共有名義とは、複数の人間で一つの不動産を所有することを言います。

例えば、
・夫婦で資金を出し合って(または住宅ローンを借入して)マンションを購入した。
・かつて贈与税の特例がまだ現在のように整ってない時に親と本人とで資金を出し合いマンションを購入した。
・相続が発生し兄弟姉妹で不動産を所有することになった。 など

以上の場合は複数人で不動産を所有している共有名義に該当します。特に共働き世帯が増えている現代では、夫婦で自宅を所有するケースがよく見られるようになってきました。

(2)共有不動産売却の注意事項
では、共有不動産を売却するときには、どのようなことに注意すればよいのでしょうか。

不動産の売却は名義人(本人)が手続きをする必要があります。したがって、単独名義の場合はその人一人が手続きを行っていきます。対して、共有名義の場合は名義人が複数ですので、不動産登記簿に記載されている名義人全員が手続きをする必要があります。

主な売却手続き
・売買契約の出席(契約書等に署名・押印)
・決済(物件の引渡し)の出席(登記関係書類等に署名・押印)
・確定申告 など

不動産の取引では、しっかりと本人確認をしなくてはいけないといった観点から、まだ署名・押印文化が根強く残っています。したがって、各手続での全ての名義人の出席が「原則」となっています。

契約や決済などの売却手続きには、必ず「相手」が存在しますので、日程を調整する場面は多くでてきます。

単独名義の場合は本人と相手のみの日程調整で済みますが、共有名義など複数人いる場合には、相手側との日程調整の他に共有者同士の日程調整が必要になります。事前によく共有者同士で打ち合わせをしておきましょう。

また、遠方にいて契約の出席ができない場合など共有者の一人でも出席できない場合には原則、売買契約はできません。予め委任状を作成し代理人を選任しておくと良いでしょう。一人でも参加できないと分かった時点で不動産会社の担当に相談しておきましょう。

2、登記済証の紛失

(1)登記済証とは
登記済証とは、不動産登記が受理されて法務局の処理が終わった際に法務局から交付される書類の事を言います。実際には登記済証と呼ばれることは少なく、多くは「権利証」と呼ばれています。不動産を売却するときには必ず必要です。

従来の登記済証(権利証)は表紙に「登記済権利証」と印字され、製本されているものでした。ページを開いていくと「登記済」と大きな印鑑が押されています。

しかし不動産登記法が改正され、地域によって移行期間は異なりますが、平成17年以降、法務局に新たに所有権移転や所有権保存の登記申請したものは「登記識別情報」へと切り替わり、A4サイズ一枚に法務局が交付した暗号が記載されるようになりました。(従来の登記済証も有効)

(2)登記済証紛失時の売却
登記済証は再発行ができません。したがって、以下の登記済証に変わるものを作成して売却手続きを行います。紛失していると分かっている場合には予め不動産会社の担当に相談しておきましょう。

登記済証を紛失した際は以下の方法で売却の手続きが行えるようになります。
①事前通知
②資格者代理人(弁護士や司法書士など)による本人確認情報の提供
③公証人による認証
今回は、実際の不動産売買でよく行われている②の資格者代理人による本人確認情報の提供を説明します。

・本人確認情報の作成
本人確認情報とは資格代理人(弁護士や司法書士など)が不動産所有者を確認し、自らの権限と責任によって所有者であることを証明する書類のことを言います。作成は確認者である資格代理人が行います。この書類を作成することによって、売買が行えるようになります。

権利証を紛失した状態でも、買主を探す販売活動は行えますので、作成の依頼は買主が見つかって売買契約の締結後から決済(物件の引渡し)までの間にその売買の登記を担当する司法書士に依頼するようにしましょう。

但し、本人確認資料作成には大きな費用が掛かります(5万円~10万円程度が相場と言われています)ので、登記済証や登記識別情報は紛失しないようにしっかりと分かる場所に保管しておきましょう。

なお、相続登記を行う際には、登記済証(登記識別情報)は必要ありません。

例えば、親所有の不動産を相続で取得し、自分名義に登記を変更したい場合、「親の登記済証の保管場所が分からない」といった場合でも相続登記は可能です。

3、海外居住時に日本の不動産を売却

海外に居住中もしくはこれから海外転勤で日本を離れる方が日本国内の不動産を売却したい場合にはどのようにすればよいでしょうか。

海外にいらっしゃる方でも日本の不動産を売却することは可能です。しかし手続きは日本在住の人とは異なりますので、注意が必要です。

では、異なる点を下記にまとめてみました。

(1)本人確認と署名証明(サイン証明)の取得
まず不動産を売却する際には、司法書士が作成する「売主から買主へ登記名義を変更する書類」と「印鑑証明書」を法務局に提出する必要があります。その書類には今回売却する物件の情報等が記載されており、売主の署名と実印での押印が求められます。

そして、その書類に署名したのは本人であると証明する証として、「印鑑証明書」を添付します。この書類を法務局に提出すれば、登記名義の変更手続き(売買の手続き)が完了します。

日本在住の場合は前記の方法で手続きが行えますが、海外に居住している人は本人確認資料である、印鑑証明書の添付ができません。日本に住民票がないので、発行できないからです。

そこで、登記名義変更の書類の提出先である法務局は、この場合「署名証明(サイン証明)」の提出を求めます。この署名証明は在住地の日本の在外公館(領事館や大使館)で発行が可能です。

署名証明とは印鑑証明の代わりのようなもので、本人が署名したことを在外公館が証明してくれる書類です。

しかし、署名証明には2つの形式がありますので、不動産会社の担当にどちらが必要か必ず確認をしましょう。

では、二つの形式の説明をします。

形式1(綴り合せタイプ)
形式1の署名証明とは、申請者(売主)が持参した自分の署名が必要な書類と在外公館が発行した書類を綴り合せにして、在外公館印の割り印したものを言います。

在外公館は次の手順で本人と証明します。
①申請者(売主)は自分の署名が必要な書類を大使館に持参。(まだ署名してはいけません)
②在外公館員の面前でその書類に署名。
③在外公館員は予めパスポート等で本人確認をしたうえで、本人と証明する書類を発行。
④署名した書類と在外公館が発行した本人と証明する書類を綴り合せて、在外公館の割り印が押印。

(形式1の署名証明の見本)
形式1のサイン証明見本

※在フランス日本国大使館の形式1の署名証明見本例から引用

この「自分の署名が必要な書類」こそが、法務局へ提出する買主への登記名義を変更する書類になります(画像では右側の書類のこと)。不動産会社と相談し、司法書士からメール等で送ってもらいプリントアウトしたうえで大使館などに持参すると良いでしょう。

この出来上がった書類は決済(物件の引き渡し時)までに不動産会社の担当もしくは司法書士にエアメールで送ります。

形式2(単独タイプ)
形式2の署名証明とは、大使館が用意した書式に署名し、この署名は本人のものですと在外公館が証明してくれるものになります。まさしく日本の印鑑証明書と似ています。
また、形式2は形式1と違って一枚になります。

(形式2の署名証明の見本)
形式2サイン証明 見本

※在フランス日本国大使館発行の形式2署名証明見本例から引用

この形式2の署名証明は名義変更の書類には使用できません。ただし、不動産を売却する際の売買契約等を日本にいる親族などの代理人に任せる場合には、不動産会社が用意した委任状と形式2の署名証明が必要です。

署名証明には提出や用途によって、形式が異なりますので予め不動産会社の担当にしっかりと確認しましょう。

(2)代理人の選出
本人は海外に在住しているので、契約や引渡しに出席できない場合が多いと思われます。その際には日本にいる者を代理人として取引を行います。不動産取引なので、代理人は親族などが良いでしょう。

その際、一連の売却行為を代理人に委任するための「委任状」が必要になります。ほとんどの場合、不動産会社が用意したものに本人が署名をし、在外公館で取得した形式2の署名証明と合わせて返送してもらう手順で手続きが完了になります。

(3)非居住者の源泉徴収制度
非居住者とは日本国内に住所がない、または、現在まで引き続いて1年以上日本国内に居所がない人のこといいます。よって日本から住民票を抜いて、海外生活されている人はこの非居住者に該当します。

非居住者が日本国内の不動産を売却する際には、日本国内における所得の申告漏れを防ぐ観点から、一定条件に該当する場合に売買価格の10.21%相当額を源泉徴収して税務署に支払う義務が発生します。

支払いは原則として、その不動産の買主が決済日(物件引渡し日)の翌月10日までに税務署に納める方法で行われます。

但し、源泉徴収を支払う必要があるか否かは、その不動産取引の内容よって判断されます。

今回売却する不動産の取引が下記の三つにあてはまる場合は源泉徴収の必要はありません。
①買主が法人ではなく個人
②その個人の住宅用途が自己居住用もしくはその親族居住用
③売買価格が1億円以下

非居住者源泉判定表

                                                                                    ※源泉徴収判定表

なお、徴収された税金は確定申告を行うことによって、還付される可能性があります。

(4)納税管理人の選任
海外居住中の方であっても、その不動産売却で利益が生じた場合には確定申告を行わなければいけません。一度日本に帰国して、確定申告期間中に手続きできれば問題ないのですが、都合で帰国できない方もいらっしゃるかもしれません。

そのようなときは、本人に代わって確定申告の手続きや還付金の受取りなど行う「納税管理人」を選任する必要があります。

申請は本人が本人の納税地を所管する税務署に対して行います。帰国が難しい場合などは必ず選任しておきましょう。
詳しくは国税庁のホームページをご確認ください。

(5)全体の注意点
主な日本在住時と異なる点を説明しましたが、海外在住の場合には、時差や郵送物の到着日数など他にも注意する点があります。買主が現れる前に、不動産会社の担当と連絡を取り合い、余裕を持ったスケジュールを設定しましょう。

4、まとめ

以上、イレギュラーなケースをご紹介しました。

不動産の売却の手続きは少々複雑で普段慣れていない準備も必要になります。また、売買契約には期限を設ける必要があることから、余裕を持ったスケジュール管理も必要です。
少しでも手続きに不安がある場合には、予め不動産会社の担当に相談しましょう。