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2021年の中古マンションの価格はどうなる?コロナの影響は?

2021年の中古マンションの価格はどうなる?コロナの影響は?

2021年になり、首都圏では2度目の緊急事態宣言が出されました。ようやく3月21日に全面解除されましたが、結論から申し上げると、住宅市場においては、緊急事態宣言は“当面”の需給関係・価格に、さほど影響を与えておらず、むしろ底堅い需要と新たな需要が意外とも思える“活況”を生み出しているようです。

総論として、コロナによる経済への影響は小さいものではありません。GDPも企業収益も失業率も良い数字ではありません。中期的にはその影響が顕在化してくることは想定しておくべきだと思います。
本稿では、2021年、“当面”の中古マンションの価格について考えてみたいと思います。

【目次】
1.2020年の市場の動き
(1)取引件数と価格の状況
(2)コロナの影響で生まれた動き
2.なぜ中古マンションの価格が上昇したのか
(1)日経平均株価の上昇
(2)新築マンションの供給減少による中古マンションへの需要の高まり
(3)決め手はゼロ金利政策と住宅取得優遇政策
3.2021年の中古マンションの価格は?
(1)しばらくは現状水準が続く
(2)経済状況の回復は不透明
(3)中期のトレンドは価格下げと二極化
4.まとめ

1.2020年の市場の動き

レインズ(東日本不動産流通機構)の東京都の成約登録データを見ると、2020年は件数で前年比約5%の減少となっています。また平均成約価格は東京都全体で5%ほど高くなっています。エリア別に見て、投資物件の比率が高いと思われる都心3区の築40年以上が3%ほど下落しているだけで、各エリアで3%以上上昇、中には10%以上上昇したエリア、築年階層のところがありました。

 4月、5月は緊急事態宣言の影響で、成約件数が前年比4割5割減少しましたが、6月以降でそれをほとんど取り戻した状況になりました。神奈川県、千葉県、埼玉県も同様の傾向で、特に8月、10月、11月の成約件数の増加が顕著です。
年明け2021年1月のデータを見ると、成約登録件数は首都圏全体で前年比30%近くも増加しています。私どもに寄せられる物件購入反響も同じように増加しており、住宅購入需要の関心の高さを実感しています。筆者は一定の需要はあるとは予想していましたが、ここまでの状況を昨年の夏場に想定できませんでした。正直なところ読みが外れた形です。

ただ、反響をいただく中にも「様子見」「じっくり派」の方が多いと感じているのも実際のところです。

(2)コロナの影響で生まれた動き

コロナで私たちの行動が制限されました。テレワークを求められ、外出も外食も旅行も自粛要請。それまでは通勤時間を含め職場で過ごす時間の方が、自宅で過ごす時間よりも長い人が、突然自宅で過ごす時間が一番長くなってしまいました。 テレワークのスペース、家族と過ごす広いリビングやダイニングが欲しくなります。あまり気にしなかった日当たりも気になります。今の住まいに対する不満が高まるのは無理もありません。コロナが住まいの意義を考えるきっかけになった人たちが多いのではないでしょうか。

 具体的な行動は2つに分かれました。一つは、「賃貸を脱出して少し離れた広い持ち家に住み替えよう」という動きです。ただし予算には限度があります。今住んでいる場所だと予算に収まらない。しかしテレワークの機会も増えているので通勤回数は以前より少ない。あまり遠くに住むのは躊躇するけれども、少し離れる郊外なら許容できる。大規模な商業施設や公園など、距離以外の生活利便性があるところならよいのではないか。

実際、新築戸建ての販売が好調です。新築戸建ての価格は、マンションほど上昇していません。ほぼ横ばいと言ってもいいくらいです。新築戸建ての平均価格は、東京23区で約5,500万円、東京都都下で約4000万円、横浜市・川崎市で約4,300万円、千葉県西部で約3500万円、さいたま市で約3,700万円です。全額ローンを35年で組んだ時の毎月返済額は、9万円から14万円程度です。新築戸建ては「買える広い家」であることが売れる要因となっているようです。
郊外部の中古マンションも同様です。「買える価格」「今より広い」がキーワードになっているようです。神奈川県、千葉県、埼玉県の3県では、2020年の東京都からの転入者が転出者を上回っており、とくに1回目の緊急事態宣言解除後の夏場以降に増加がみられます。

もう一つは、「密を避けるには電車の利用を減らしたい」「毎日の買い物の利便性が必要」など「都心」「駅近」「タワー」といったコロナ以前からの比較的高額な人気物件を買う動きが継続したことです。やはり利便性が重要だという考えの方がまだまだ多くいることの現れです。これまでのトレンドは止まってはいないと考えられます。

昨年、駅近の人気を計るため、駅徒歩分の違いでの価格上昇度合を調査しました。2013年と2019年の成約情報を比較したところ、明らかに駅近の価格上昇率が高いことが分かりました。かつての人気の目安の「駅徒歩10分以内」が、「駅徒歩6分以内」に変化したのではと思える調査結果でした。この数年の社会構造の変化で、共働き世帯や単身世帯が増えているために、時間に対する価値観が強まってきたと推測できます。職住近接、駅近、資産性を重視する傾向は強いのだと感じます。

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2.なぜ中古マンションの価格が上昇したのか


2020年6月以降、成約件数が急回復し、成約価格も上昇したという事実から、現時点では、コロナの影響よりもマンション価格を支える市場の構造の方が強いと考えざるを得ません。ここでは、まず2013年以降、中古マンションの価格を上げた市場構造について考えてみます。

(1)日経平均株価の上昇

マンションの価格指数と日経平均株価は連動していることが知られています。不動産は株式に比べて流動性が低いので、株価の動きに遅れて連動しています。 2012年12月の日経平均の終値は10,395円です。2018年12月は20,014円、コロナ直前の2019年12月は23,656円です。この間、中古マンションの価格は上昇を続けました。 株価が上昇すれば、投資余力が増して不動産を買う人が増えるからだと言われています。

(2)新築マンションの供給減少による中古マンションへの需要の高まり

2020年12月に不動産経済研究所の「首都圏・近畿圏マンション市場予測」によると、2021年の新築マンション供給は、首都圏で3.2万戸と予測されています。 1994年以降リーマンショックまでは、少ない年で6万戸、毎年7、8万戸の新築マンションが供給されていました。リーマンショック以降、マンションデベロッパーが大手に寡占化され、好立地の高額物件に偏った供給になりました。2013年は5.5万戸だったものの、2016年以降は年3万戸台、2020年は約2.4万戸まで減少しています。 マンション購入希望者は、おのずと中古マンションへ向かうことになります。 また、新築マンションの価格が高騰したことも見逃せません。土地価格や建築費の上昇が新築マンションの原価を押し上げました。大手デベロッパーは安く販売しては利益が出ないので、好立地の高額物件を「買える人」にじっくり販売する戦略をとっています。大手デベロッパーが新築マンションの相場を作り上げた側面があります。

(3)決め手はゼロ金利政策と住宅取得優遇政策

大手デベロッパーが高い価格をつけても、売れなければ仕方がありません。高くても買える人たちの存在、変える環境があったからこそ、新築マンションも中古マンションも価格が上昇しても売れています。 買える人たちの主役は「共働き」世帯です。共働き世帯は世帯年収が高いため、住宅ローンの借入上限額が上がります。先にも述べましたが、職住近接、駅近、資産性重視のニーズは高く、高価格の人気物件の購入者となります。

 また、共働きでない世帯にとっても、2013年以降の金融緩和政策、とりわけゼロ金利政策での住宅ローンの金利低下は大きな追い風になりました。
新築、中古を問わず、価格が上がった最大の理由は、金融緩和による低金利だと思います。アベノミクス開始の段階でも金利は高いものではありませんでしたが、2016年からのゼロ金利政策で住宅ローンの金利は、筆者から見ても空前の低金利です。金融機関が気の毒に思える水準です。
変動金利では0.5%を下回っています。固定金利でも1%前半です。価格が上がっても「買える」金融環境が続いています。

例として、住宅ローンの毎月返済を15万円に想定している方は、2010年では変動金利が1.5%程度でしたので借入上限額は4,900万円ほどでした。ところがゼロ金利政策になると0.5%程度になりましたので、借入上限額が5,800万円ほどに上がります。物件価格が20%上がっても毎月支払い金額は同じです。
そして実際に中古マンションの価格は、都心で40%程度、郊外でも20%程度上昇しました。

加えて、住宅ローン減税などの住宅取得の優遇制度も、住宅取得を後押ししていることは間違いありません。

3.2021年の中古マンションの価格は?

(1)しばらくは現状水準が続く

現時点では、前項で述べた価格上昇の構造が、急激に変化することは予想しづらいため、2021年の中古マンション価格は、“しばらく”現状の価格水準で推移すると思います。 住宅ローン控除の特例が2年延長され、床面積の要件も40㎡以上に対象に拡大されます。後に述べる不安材料が急激な変化を与えないならば、2021年の住宅市場は活発なのではないかと思います。 ただし、エリアや物件による格差が拡大していることには注意が必要です。

 リーマンショックの時は、新築マンション、戸建ての業者の「投げ売り」につられて、中古マンションも大きく値下がりする状況が起こりましたが、今回のコロナでは、4月、5月の緊急事態宣言で取引件数が4割、5割減少したものの、「投げ売り」は起こりませんでした。現段階では、先が見えない中での我慢比べに耐えられない業者はあまり見受けられません。むしろ住まいへの関心の高まりで需要が喚起されたことで、好調な業者も数多くいるようです。

2019年から、新築マンションの供給数よりも中古マンションの取引数の方が多くなってマンション市場での中古マンションの存在が大きくなったことは、中古マンション価格の下支えにはなると思います。ただし、今後の不安材料はいくつかあります。

(2)経済状況の回復は不透明

冒頭でも述べましたが、コロナが経済に与えた影響は大きいことは疑いがありません。企業収益は業種によって大きな格差が生まれています。巣ごもり消費、新しい生活様式での需要に対応する企業は好業績です。一方、飲食、旅行、アパレルなど大きな打撃を受けている業種・業界があることはご存じの通りです。購入層の絶対人数は確実に減少しています。 買える人は買う。買えない人は買えない。売れる物件は売れる。売れない物件は売れない。格差がついたと思います。現在、購入意欲が高い人たちが一段落するころに、次のプレーヤーが同数現れるかどうかは、今後の経済の回復次第になると思います。

 これまでの中古マンション価格の上昇を吸収してきたゼロ金利政策には、すでに引き下げ余地はありません。買う人の世帯収入の増減が需要に直接影響を与えることになりますから、実態経済の回復の遅れがより顕在化してくれば、価格の下げにつながる可能性があります。

少し話はそれますが、私見として、これから住宅の購入を検討される方は、住宅ローンは固定金利を選択されることをお勧めします。金利はこれ以上下がらないところまで下がっています。借入期間の短い方やどんどん繰り上げ返済をされる方は別ですが、そうでなければ固定金利の方が安心です。

現在の金融環境についても不安材料があります。
一つは日経平均株価です。足元の2021年2月日経平均終値は28,966円。一時は3万円を付けました。実態経済と大きく乖離しているとの指摘があり、今後の世界経済の動きと金融政策に影響される可能性があります。
アメリカのバイデン政権が、大規模な財政出動を伴う経済対策を打ち出しました。これによるインフレを懸念する声が上がり、アメリカ国内でも賛否があります。
すでに経済回復期待が長期金利の上昇を促し、株価下落につながる動きが出ています。
コロナで経済活動自体が制限されていたため、金融緩和のマネーが株式やビットコインに流れていましたが、ワクチン接種が進めば人、物の動きが回復するとして非鉄金属や原油が値上がりしています。緩和マネーの流れが変われば、株価下落の心配があります。

2013年の東京オリンピック決定後、海外投資家からの首都圏(主に東京)での投資用不動産の人気が上がりました。コロナの状況でも海外投資家や外資系不動産ファンドが資金を投入する動きが報じられています。最近では電通本社ビルの売却が話題となりました。しかし都心部がメインであり、投資対象でないエリアではこうした資金の下支えはありません。

おそらく影響は限定的ですが、オリンピック・パラリンピックも不安材料のひとつです。1年延期となった2020オリンピック・パラリンピックの開催が不安視されています。2019年に論じられていたオリンピック・パラリンピック終了後の海外投資家の売却懸念はすでに消えています。
これから関心が高まるのは、選手村として利用した建物をマンションとして分譲する「HARUMI FLAG」の販売戦略です。開催されるにしろ、中止となるにしろ、現在の経済環境で4,145戸の分譲戸数の販売をどうするのか、各デベロッパーの動きは気になるところです。

(3)中期のトレンドは価格下げと二極化

不動産価格について、中期的な視点で考えたとき、2022年の生産緑地問題、少子高齢化による人口自体の減少、とくに生産労働人口の減少、単身世帯の増加、ファミリー世帯の減少が進展していきますので、全体として需給関係は弱含みに推移すると考えられます。 一方で、好立地物件は、今後も価格は安定し、物件個別の人気度合いによっても大きな価格差が生まれていくと思われます。いわゆる二極化です。

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4.まとめ

・2021年の中古マンション価格はしばらく現在の水準で推移すると考えられる。
・新築供給戸数の減少による中古マンション市場の拡大は価格維持につながる。
・しかし、これまで需要を支えてきた低金利政策の追加の効果はないので、経済の回復状況次第では価格下落の芽が出てくる可能性がある。
・金融環境は、とくにアメリカの金融情勢の動きに注目する必要がある。
・(影響は限定的だが) 「HARUMI FLAG」の販売戦略に注目している。
・将来的には二極化が進行する。

コロナは、住まいの意義を考え直すきっかけとなりました。新たな需要を生むことにもつながりました。足元の中古マンション市場は、マイナス影響を受けず、むしろ好調の様相を呈しています。
ただし、経済の足腰には大きなダメージを与えています。今後の影響については注視していく必要があります。

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